カイロから270kmほどナイル川を溯った中部エジプトの町ベニ・ハッサンには、第1中間期から中王国時代にかけて、多くの岩窟墳墓群が造られた。墓を造営したのは、古王国時代の終焉後、国内が混乱の最中にあったときに力を伸ばしてきた地方州侯たちである。
斜面に南北横一列、全部で39基が造られ、そのうちの12基に自由で生き生きとした壁画が描かれている。この伸びやかさは、中央に縛られることのなかった、この時代に特徴的なものであった。中でもレスリングのモチーフはその好例で、様々な組み手が躍動感いっぱいに描かれている。